Dream*9 ページ11
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｢Aさん､帰りましょ？｣
帰る支度をして椅子から立とうとした瞬間､すぐ隣から聞こえる阿部くんの声。
｢え､ちょっと待って｡いろいろツッコミどころ満載なんだんけど｡｣
｢何にですか？｣
とぼける阿部くんの腕を引っ張って､この時間は誰もいないであろう休憩スペースに連れ込む。
｢まずここ会社だから､一緒に帰ろとか言わないで｡｣
付き合い始めた頃に約束したこと1つ目。
社内ではあんまり会話をしないこと。
｢なんでだめなんですか？前から思ってましたけど､同じ会社なのにわざわざ外で待ち合わせする必要あります？｣
｢あります！ものすごく！｣
2つ目。
一緒に帰る時は外で待ち合わせすること。
｢誰に見られてもいいじゃないですか｡何を言われても俺たちの関係は変わらないでしょ？｣
今のところ2つとも見事に破られてる。
｢ねぇAさん､聞いてます？｣
｢あとその名前呼び､会社ではしないって約束した｡｣
3つ目。
社内では名前で呼ばないこと。
｢岩本先輩はいいのに俺はだめなんですか？｣
｢照と阿部くんは違うの！｣
｢はぁ…もういいです｡｣
｢えっ､ちょっと､阿部くん！｣
不貞腐れたような表情をしたと思ったら､私の手を取って歩き出す。
私が何度呼びかけても止まる様子はない。
｢ちょっと待ってストップ！｣
瞬く間に私たちが手を繋いでいることに気付いた女性社員が集まってくる。
視線が痛いぐらいに突き刺さる。
それはもう､この場から早く逃げ出したいぐらいに｡
｢阿部くんってば､｣
何度目かの呼びかけでようやく足を止めてくれた。
…そう思ったのもつかの間。
｢俺たち付き合ってるんだから､手繋ぐぐらい当たり前でしょ？｣
｢あ…｣
周りの人たちに聞こえるような大きな声。
阿部くんがそう言った瞬間､微かに聞こえていただけの話し声が徐々に大きくなっていった。
｢あ､阿部くん､今の本当？｣
その中の1人の女の子が阿部くんにそう尋ねる。
きっとこの子は阿部くんが好きなんだろうな。
｢ほんとだよ｡俺､Aさんと付き合ってる｡｣
返事を聞いてなんとも言えない悲しそうな表情を浮かべて返っていったその背中を私はただ見送ることしかできなかった。
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作者名：夏目 | 作成日時：2024年3月26日 17時
