触れた手と触れられた熱 ページ19
「ラウールくんがセットしてくださるんですか？」
お店の控室には大きな鏡とメイクセットが並んでいる。
ラ「乃杏ちゃん人混み苦手でしょ？」
ちょっと疲れた顔してる、と鏡越しに目が合う。
蓮くんと別れてから鬱状態になり
外に出られなくなった反動で
短時間でも人混みに揉まれると
冷や汗が止まらなかった。
「、ありがとう」
ラ「いいんだよ！乃杏ちゃんの黒服だからね」
チラッと見ると、にこやかに笑いながら
私の髪をまとめていく。
さっきの、どういう意味だったんだろ。
ラ『あなた以外に染まりませんって意味なんだって』
私、誰に染まる前提で話されたんだろ。
……ラウールくん、じゃないよね、？
だってお店での恋愛は禁止だし
もし破れば罰金、何度も繰り返すと解雇だと聞いた。
そんなリスクあることしない、はず。
「さっきの、乃杏は誰に染まる前提だったの？」
ぴくっと止まった手。
見つめられる。
鏡越しに交わる視線。
ラ「……内緒〜！」
華やかに微笑む。
またヘアセットが始まる。
作業が進んでいるかと思えば耳元で
ラ「乃杏は誰だと思う？」
なんて囁いて顔を覗き込んでくるから
もし、ラウールくんにしか染まりませんって意味で
私にあのドレスを買ったのだとしたら、
そんなことが頭の中でぐるぐる回った。
そして何事もなかったかのように離れる顔と
動き出す手。
セット中に触れられた耳。
鼓動がはねて、異常なまでに熱を帯びていた。
はい、できたよ、と言われて前を向く。
今まで見たことがない自分がいた。
「ありがとう、」
顔を見れなくて俯いたまま。
歩いていこうとすると
ラ「あ！あ！まってぇ」
そう腕を引かれる。
ラ「しまってないよ？後ろ向いて」
言われるがまま後ろを向く。
ジーッとゆっくりしめられるチャック。
その時間はお店のときよりもずっと遅く感じて。
長くて、心がざわついて。
ホックを止めるときに首に指先が触れた。
残る感触。
そして、ラウールくんの方向へ
体を回転させられる。
ラ「可愛いね〜？」
なんて無邪気に笑う。
ラ「俺は乃杏の黒服だからね〜」
ラ「大丈夫だよ〜、俺がついてる」
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作者名：あまつかくらげ | 作成日時：2024年3月20日 21時
