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『赤いなー、少し』
翌朝、鏡で顔を見ると見事に赤みを帯びたまま。あんだけいい音鳴らしたらこうなるか、と冷静に思いつつ支度する。
【ほっぺ大丈夫なの？】
昨日の深夜届いたメッセージ。
こんな時間まで起きてるんだ…意外と夜更かし？なんて彼の日常をしれたみたいで嬉しい反面、心配をかけたことに申し訳なくなる。
大丈夫です、と返すと、かわいいスタンプが帰ってきて。…こんなやり取りで浮かれて子どもみたい。
『いってきます』
誰もいない部屋に言う恒例行事。いつもより少し高めのパンプスを履いて、今日も家を出た。
『おはようございます』
「おっはよー！平気なの？」
今日はいつもよりギリギリに出社した。私が扉を開けると、みんなが一斉にこちらを見るから思わずびっくりしたけど。挨拶をすると、まずは元気な佐久間さんの声。
『ご心配お掛けしました』
「おはよーさん、大事ならんくてよかったわ」
『ありがとう、康二くん』
昨日の分まとめといたで。と渡してくれた資料。私の仕事、黙ってサポートしてくれたんだなと、その優しさを感じる。
自分のデスクからヒラヒラ手を振った岩本さんにも会釈すると、クシャッと笑ってくれた。
……そして、隣の人。
「もうほんとに痛くないの？」
『大丈夫です、赤いだけで』
「ほんと？信じていいのね？」
肩が触れる距離までガラガラと椅子を動かしてきて、心配そうに聞いてくる。そういう所、ほんとよくない。
『あ』
「ん？」
そんな彼にしか聞こえない距離で、呟く。
…やばい、この前までの癖でお弁当、作ってきちゃった。
カバンに詰められた2つのお弁当箱を見て、どうしようか考えているとひょいと抜き取られたソレ。
『えっ』
「え？俺のでしょ？」
この前と同じ、紫色の風呂敷に包んだお弁当箱。迷うことなく手に取って、自分のカバンの中に入れ込んだ。
「ダメ？もらっちゃ」
『いや、いいけど、えっと』
勝手に勘違いして作って、重たい女とか思われたかも。
「俺、Aちゃんのご飯好き」
『〜〜っ！』
そんな心配も要らなかったようで、耳元でボソッと言われる。
そのちょっと低くて甘い声、弱いからやめてください。
「ふっかさん…セクハラすんなや」
「おい！してねぇわ！」
康二くんのジト目に勢いよく返す彼。良かった、いつも通りだ。皆。
『今日も…お願いします』
みんなに頭を下げると、頑張ろうねと言ってくれる。
いつの間にか定位置に戻った彼。私も、パソコンへと向き合った。
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作者名：蒼 | 作成日時：2024年3月16日 3時
