Toxic Boy . Ⅱ (ページ4)

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「おはよぉ」
『…おはようございます』
「やったー、初乗りじゃん」

私の車の助手席に、何故か深澤さんが居る。
経緯はこう。昨日の帰宅後、土曜日恒例のデートのために連絡を入れたら''ドライブしたい''との事だった。
てっきりそっちが運転するものかと思っていたのに、俺、免許持ってなーい。と軽く答えた。

am10:00。彼のマンションの前に車をつけると、大きめのトレーナーにスキニーパンツ、眼鏡をかけたラフな姿で登場した。
…そんな姿でさえも、なぜか色気が出ているのが不思議なところ。

「お願いしまぁす」
『はい、シートベルトちゃんとしといてください』

……何度観ても隣に、深澤さんが、いる。

「いいねえ、Aちゃんの運転」
『そうですか？』
「てか敬語も呼び方も戻ってんじゃん。やーめーてーよ」

赤信号、隣の深澤さんにまた目をやると、口をとがらせて拗ねたような顔をした。31歳のくせに、子どもか。

『やっぱり名前と敬語は、会社通りにしましょう』
「なんでよ」
『ケジメです、色々』

境界線だ。好きになってはいけないと、自分に分からせる為。
私と深澤さんの関係はあくまで会社の仕事仲間。延長線で、偽物の恋人だっていうだけ。
なにそれ、まぁいいやと言って前を向いた深澤さんはご機嫌そうに鼻歌を歌っている。少し高くて優しい声が、心地いい。

「でも、ほんとによかったの？」
『何がですか？』
「公園でピクニック。お弁当だって、作るのに早起きしなきゃでしょ」

ドライブするなら、公園でお弁当でも食べましょうと提案したのは私だった。
……これは私の意地だ。彼女に負けたくない勝手な闘争心。

『料理は嫌いじゃないし、全然大丈夫です』
「いいお嫁さんになるねえ」

楽しみだなー、と笑う。いい旦那さんになる為に免許取らないとですね、と小言を言うと、今年は取るから！と意気込んでいる。多分、嘘だと思うけど。

『寒かったりしたら、言ってください』
「んーん、お天気でポカポカだし、快適で寝れちゃうわ」

車で約30分。長いようで、短い。
心のどこかで、この時間が終わらなければいいのにと考えながら、ハンドルを強く握った。