Toxic Boy . Ⅱ (ページ8)

今日:15 hit、昨日:103 hit、合計:40,718 hit

47 ページ8

ボロボロと涙をこぼす彼女。泣きたいのはこっちだ。
…私だって、深澤さんのこと、何も分からないのに。

好きだと自覚したのに、想いを伝えるすべも無く、なんなら伝える前にフラれているも同然だ。ただこの関係に目を瞑っているだけ。

「わたしはっ、お休みの日に会ってもらったことも、あんな優しい顔で笑いかけてもらえたことも、なかったのに」

そんな事ない。あの日給湯室で花村さんの頭を撫でた手は、とても優しかった。好意とかではなく、隠せない彼の優しさ。
ぐちゃぐちゃの顔で泣きじゃくる彼女を見て、どこかで共感する。人を好きになるのは、苦しくて、切ない。

「最後に寝てよってお願いしたのに、そういう事はしないって帰ったの。次の日、つなぎ止めたくてまたお弁当作って、ロビーで待って、渡して、給湯室でアンタの前であんなに優しくされて。…期待したの。なのにアンタが出てった後すぐ追いかけて、一人ぼっちにさせられて。また求めてくれるかもって思って何回連絡しても返ってこなかった。…あの日、2人の姿を見て、私がどんな気持ちだったかわかる！？」

…わかんないよ。わかるわけ、あるもんか。

『…わかりません。深澤さんが言ってる''忘れられない子''も、私じゃない、勘違いです』
「ふざけないでよ、そんな訳ない！だって」
『あの人はそういう人です。誰も好きにならないようにしてる。遠ざけてる。…だから、私も言えない。羨ましいです。その気持ちを素直にぶつけられる、あなたが』

食い気味に言葉をさえぎって、まっすぐ見つめた。頬はまだ、熱く痛むまま。そんな私を見て少したじろぐ。

「…なんなの、アンタ。もういい」

肩をぶつけながら通り過ぎて、扉が閉まる。
足音が遠のいたことを確認して、その場に座り込んだ。

『…っう』

嫉妬してるのは、私の方だ。抱きしめられても、キスされても、私たちはそれ以上の関係になることは無い。この気持ちを知られてしまえば、彼との関係は''仮の恋人''ではなく本当にただの上司と部下になる。
…でも彼女は知ってる。彼がどんな風に触れるか、愛するのか。決して愛はなくても、私が絶対に知ることない彼の姿を知っている。純粋に気持ちをぶつけて、ただ真っ直ぐに追いかけて。羨ましい。素直な彼女が。

静かな倉庫、私のすすり泣く声だけが響く。
痛いのは頬じゃない。彼を好きだという、この気持ち。

【ごめん、お腹痛いから戻るの遅れる】

既に昼休みが終わるまであと5分。
康二くんに一言連絡を入れて、膝を抱えた。