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救護室で渡された氷袋を頬に当てる。少し薬品の匂いがする部屋に2人きり。冷たさのせいなのか、ぶたれたせいなのか、未だに頬はじんじん痛む。
「…とりあえず、これで大丈夫だから。午後休に変更頼んどくね」
私へ接する態度も、いつもと変わらない深澤さん。ただ1つ違ったのは、氷袋を受け取ろうとして触れた手を、反射的に離した事。
(さっきまで、抱きしめて、頭だって撫でてた癖に)
“もうやめよっか。恋人ごっこするの”
さっきの言葉を思い出すだけでチクリと痛む。口を開こうと息を吸った時、勢いよく開いたドアと、駆け込んできた康二くんの姿。
「…おいっ、A」
「…こーじ、あとはお願い」
「ふっかさん、ちょっと」
そんな彼を見て足早に去った深澤さんは、1度もこちらを振り返ることなく扉を閉めた。
「…なぁ、何があったん」
そんな彼の態度に驚きつつも、こちらに来て腰掛ける私の目の前にしゃがみこんだ。
その康二くんの言葉にも、私は顔を横に振るだけ。
「なんもないのに、泣くわけないやろ」
見せて、と優しく手を掴まれる。私の顔を見て、泣きそうになった康二くん。…痛々しい頬を見てなのか、私のぐちゃぐちゃの顔を見てなのか、わからないけど。
「…泣いてんのは痛いから？それとも、ふっかさんのせい？」
両方、両方だよ。痛いの。頬も、彼を好きな気持ちも、痛い。
「…A、俺にして」
『…康二、くん？』
「俺なら絶対笑わせるよ、泣かさんもん。美味しいご飯やって作ってやれるし、めっちゃ一途やで」
＿＿＿だから、ふっかさんの事、見んのはもうやめて。
最後にそう言って、会話は途切れた。目の前には康二くんの顔。自分の顔に自信ないとか言ってたけど、やっぱり綺麗な顔してるよ。そんなことを言っていた康二くんを思い出した。
どうしても、拒否することが出来なかった。
…どこかで、康二くんが向ける私への気持ちに気付いていたから。
「今は、代わりでええから。A、俺と一緒にいて」
軽く触れ合った唇が離れた後、掠れた声でそう告げた。
誰かを愛することはない深澤さんを、想い続けてどうなるの？こんな私に、今も尚…向き合おうとしてくれる彼を、好きになれたらどれだけ幸せなんだろう。
でも＿＿＿＿この気持ちに、嘘はつきたくないの。
『…誰かの代わりなんて言ったらダメだよ』
「でも」
彼の肩を掴み、ゆっくりと体を離す。
『私、深澤さんが好きなの。誰よりも』
震える声で、そう告げた。
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作者名：蒼 | 作成日時：2024年3月16日 3時
